研究内容

水産脂質成分によるメタボリックシンドローム予防効果

肥満を背景に糖尿病や脂質異常症、高血圧症を併発するメタボリックシンドロームは、脳梗塞や心筋梗塞のリスクファクターとなることから、その予防法の開発が社会的に大きな課題となっています。当研究室では、肥満やメタボリックシンドロームに対する水産脂質成分の予防効果とその作用機序について分子栄養学的な観点から明らかにすることを目的に研究を進めています。

 

我々はこれまでに、ワカメなど褐藻類に豊富に含まれるカロテノイドであるフコキサンチンが、II型糖尿病/肥満モデルマウスKK-Ayにおいて血糖改善効果や体重増加抑制作用を示すことを明らかにしました。各臓器における遺伝子およびタンパク質発現解析から、その作用機序の一つとして、骨格筋におけるグルコーストランスポーター(GLUT)4の膜移行の促進、脂肪組織における脱共役タンパク質(UCP)1発現増加に伴う脂肪酸消費亢進が関わることを見出しました。

 

また、近年、肥満をはじめとした慢性疾患の病態基盤として、生体臓器における炎症が関わることが明らかとなりつつあります。上述の肥満モデルKK-Ayマウスの脂肪組織では、マクロファージをはじめとした免疫細胞の組織浸潤の増加とそれに伴う臓器炎症の亢進を認めますが、フコキサンチン投与によってこれらの指標が有意に抑制されることが分かりました。フコキサンチンの生体内代謝物が、マクロファージや脂肪細胞に対して抗炎症作用を示すことから、摂取されたフコキサンチンは生体臓器にて多様な代謝を受けながら臓器炎症を効果的に制御することが考えられます。さらに最近、肝臓の慢性炎症疾患である非アルコール性脂肪肝炎モデルマウスに対して、フコキサンチン投与により発症予防効果を示すことを見出しました。これらの研究成果は、フコキサンチンが肝臓や脂肪組織をはじめとした各臓器における炎症制御成分であることを示すものであり、健康維持への応用を期待させるものです。

 

当研究室では上述のカロテノイドのみならず、多様な水産脂質成分の健康機能を明らかにしていきます。